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あの店に彼がいるそうです
第15章 あの店に彼がいるそうです

 嫌な予感はしてたのよ。

 だから、二階で待ってたの。

 蓮花は騒ぎを聞いて、駆け降りた。
 ホールの中央のソファに瑞希が横になって荒く息を繰り返している。
 一夜が額に濡れたハンカチを押さえる。
「突然倒れたんだ」
 晃がぶっきらぼうに呟く。
「あの客は?」
 誰を指しているのか察した一夜が立ち上がりながら答える。
「瑞希の客ならもう……」
「どきなさい!」
 蓮花の怒鳴り声に一夜と晃がびくりと道を譲った。
 マーメイドラインドレスで風を切って外に飛び出す。
 そこにいた篠田が驚いて従姉妹を見上げた。
「どうした」
「弦宮麻那はどこ!?」
 足元が危うくなりながらも、階段を降りて、辺りを見渡す。
「雅とこの辺を散歩するってそっちに……」
 指差した手を蓮花が両手で強く握る。
 それから涙を堪えて篠田に寄りかかった。
「お、おい」
「……って」
「あ?」
「追いなさいよ!」
 その剣幕に、八人集のトップが動じた。
 更に背中をぐいと押しやる。
「蓮花?」
「泣き虫フレンディは狂気のあまりに大事な人に毒を盛った! 胡桃が教えてくれたのよ。お伽噺はあまりに惨いって……十七年の孤独が女をどれほど変えるかわからないでしょう? 早く追いなさい!」
「なんの話を……」
「瑞希を助けるのよ!」
 男を鞭で嬲るのが趣向の人間が吐く台詞ではないと思いつつも、篠田は走り出した。
 白いスーツを闇夜に舞わせて。
 息を荒くして地面を蹴った。
 あの従姉妹が必死に自分に頼みごとをしたのが信じられない。
 篠田蓮花がだぞ?
 瑞希がどうしたとか言ってたが。
 弦宮麻那が何かしたのか?
 二人で話した内容は知り得ない。
 だが、予想はつく。
 瑞希は雅と会うことを頼んだはずだ。
 それしかないだろう。
 ならば、そこから何が起きる?
 酸素が足りない。
 体力不足だ。
 雅の背中を探す。
 そう遠くには行けないはずだ。
 焦るな。
 蓮花にざわつかされた心を鎮めろ。
「雅なら……」
 夜景が好きなあいつのことだ。
 青山を一望出来る南側の丘。
 そっちに行った。
 顎を手の甲で拭って、駆け出す。
 仮面が揺れて頬に当たる。
 当たり前だ。
 うちのクラブで走るバカは想定してない。
 開けた視界に星空。
 少女と少年が星を数えて立ち尽くす。
 その背中に呼び掛けた。
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