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奴隷からのはじまり。
第1章 いち、奴隷になってよ。
 顔のきれいなひとは、心もきれい。
 そんなふうに信じていた玖(く)路(ろ)香(か)は、子どもだったのかもしれない。
 入学した日に、隣に並んだ美しいクラスメイトに心を奪われ、近づきたいと素直に願った。
「佐倉(さくら)……愛乃(あいの)さん?」
 切れ長の瞳にとらわれたまま、点呼のときに知った名をおそるおそる呼んでみると、相手はおっとり微笑んだ。名家の娘ばかりが通う聖音女学苑においても、彼女はひときわ光り輝く存在で、その美貌は、誰の心をもつかむに値するものだった。
 遠慮しているみなの中で、いちばんに彼女に声をかけ、親しくなった玖路香は、間違いなく果報者だろう。
「愛乃って、本当にきれいだよね」
 出会って三週間が過ぎたころ、玖路香は昼休みに何気なく言った。遠慮なく呼び捨てにするくらい、距離は縮まっていたけれど、不思議な緊張感は今もとれていない。愛乃の容姿が美しすぎて、話しかけるときに言葉に詰まってしまうのだ。「美人は三日でなれる」という言葉は、愛乃にはあてはまらないような気がしていた。
 ハーフではないといっていたけど、西洋の美女を思わせる大人びた輪郭に白い肌。睫毛の長い尖った瞳は、深い色のアイシャドウで囲うメイクがよく映える。人形めいた穏やかな顔立ちには、神秘的なゴールドブラウンの、ウェーブ入りのロングヘアがぴったりだった。ところどころ、小さな三つ編みが入っていたり、時折、ツインテールやポニーテールにアレンジしてみたりするところが、愛乃の少女らしいこだわりを感じさせる。
 ため息をつきながらその美貌に見入る玖路香に、愛乃はクスクス笑いながら答えた。
「くうちゃんだって、可愛いのに」
 柔らかい声でしゃべる愛乃は、玖路香を「くうちゃん」と愛称で呼ぶ。これまで名字でしか呼ばれたことのない玖路香はそのたび、背筋が震えるくらい、うれしかった。
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