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奴隷からのはじまり。
第5章 ご、お父様お願い。
 愛乃はそれからも玖路香をおもちゃにし続けた。ときには妹を交え、友人に手伝わせて。彼女はいつまでも大人にならない少女のように、玖路香で遊んでいた。
 そして、自分自身はぜったいにイカない上、乱れた姿を見せることもない。
 紅の前などではときに演じてみせることもあったが、その仕草にどこか嘘があるのを、玖路香は見抜いていた。ただ、もしそれが事実だったとして、指摘することは彼女を傷つけるだけだろうし、言う必要もないように感じていた。
 玖路香がすべきことは一つ、感じる姿を素直にさらけ出して、主人を満足させることだけだ。
 堕落した日々に耽る中で、あるころから、愛乃は時折、沈んだ顔を見せるようになった。何かにおびえているような、不安を感じているような。
「どうしたの?」
 眠りにつく前に尋ねても、「何も」と首を振るばかりの愛乃に、玖路香は壁の存在を感じる。そういえば、一方的にいじられるばかりで、玖路香は愛乃の深い部分を何も知りはしないのだった。愛乃自身も、素顔を見せないようにしているようなところがある。
「ねぇ、くうちゃん。しばらく、うちに来なくていいよ」
 ある夜、とうとう言い渡された。
「どうして?」
「どうしても。理由なんか、ない」
 かたくなに説明を拒む愛乃にそれ以上訊くこともできず、玖路香は自ら答えを探ることにした。初めて、能動的なことをしたのだ。
「ずっといっしょにいたいのに、離れてって言われたの。何かあるのかな、もうすぐ」
 なにげないふうを装って執事に話しかけたら、案外あっさり回答を得られた。
「もうじき、お父様が帰ってこられるのです」
 要するに、親子水いらずで過ごしたいのだろうか。
 それにしては、あまりに愛乃の表情が曇りすぎているように思えた。
 得た情報を本人に突きつける勇気もないまま、玖路香は言われたとおり、彼女の屋敷から離れる。愛乃はその翌日以降、学校にも出てこなくなった。
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