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やさしいんだね
第3章 教師は何も
「さっき奥さんから産気づいたと連絡があった。君たちにとってHRがどうだっていいことのように、俺にとっても君たちの俺たち大人に対する反抗心になど全く関心のないことだ。明日から始まる定期試験について言及しなければならないから俺はさっきまでこうして黒板にチョークを走らせていたけれど、それも今終わった。君たちの試験の結果など俺はどうだっていい。君たちが全員レイテンを取ろうが満点をとろうが、俺にとって心の底からどうだっていいと言える。なぜならば俺が現時点に於いて一番重要なのはいくら3人目とはいえ年子とはいえホントはちょっとめんどくさいと思っているとはいえ、一刻も早く産院に駆け付けて誕生の瞬間を目の当たりにして写真を数枚撮った上で奥さんにオツカレサンと一言声を掛けなければ、上の子2人の時がそうであったように、今後家庭内に於いてしばしの間立場を亡くしてしまうからだ。単刀直入に言おう。俺の奥さんは怖い。上の子2人は女の子であるために更に厄介だ。誰も俺の味方なんてしてくれない。男親なんて惨めなものだ。時折もしかして俺ってただのATMかつ種馬?なんて虚しい思考を夜な夜な巡らせることもある。しかし家庭を持つと決めたのは紛れもない俺自身であり、疑念を抱く要素はあるにしろ奥さんと子供たちの存在が俺の勤労意欲を駆り立てるという事実が存在するからだ。要するに、俺は家庭が大事だ。まして今まさに生まれようとしている赤ん坊は男だ。俺は心の底から男の子が欲しかった。なぜなら大きくなったら一緒にアメフトをしたいという父親としてのごく普遍的かつ在り来りな夢と欲望を生まれ来る赤ん坊に対して抱いているからだ。そういうわけで、今日の俺はもう君たちに用はない。このあとは時間休を貰ったから帰ることにする。以上。」


 八田は1度たりとも噛みもせず、淡々と捲し立てると、宣言通り誰よりも先に教室から出て行ってしまった。
 小百合は呆気に取られていたが、クラスメイトは一瞬の間を置いたのみで、すぐに教室内は再び混沌に包まれてしまった。
 誰も八田のことなど気にしている様子すら伺えなかった。
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