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やさしいんだね
第3章 教師は何も
 塾へ行く前の1時間。
 そして23時過ぎに塾が終わってからの2時間。
 弁護士、社長、あとは、忘れた。

 真っ暗いマンションの一室はカーテンが開いたままになっている。
 玄関では靴が2足、脱ぎ散らかしてある。
 フローリングの上にはシャツと黒いスラックス、そしてセーラー服。
 室内に響いているのは吐息のような小さい喘ぎ声。ソンにしか聞かせない本当の感じ方。
 小百合を演じていたシズクの疲弊した身体の上で、ソンの菩薩如来が微笑んでいる。じっとりと汗を滲ませながら。
 
 きょうはちゃんとイッてよ、私は“正しいセックス”がしたいんだから。
 上の空のようにシズクはそう言ってソンの背中に腕を回すと、念を押すように腰に足を絡み付けて離さなかった。

 勤務外労働を強いられたソンは舌打ち混じりに摩擦速度を上げ、やがて力強く腰をシズクの中の一番深いところに打ち込むと動きを止めた。
 ソンにとっては不本意な形で射精が行われ、3人ぶんの精液が貼り付いていたシズクのそこを洗い流すようにソンの精液が注ぎ出される。

 シズクは今まで避妊など一度もしたことがない。
 それでも八田の奥さんのように子孫を繁栄出来ないのは、初体験での出来事が関係している。
 
「ありがとう」

 先端に白い雫がついたソンのものを口に運ぼうとするシズクの顔は、いつの間にか小百合へと戻っていた。
 ソンは「いいよ」と言って立ち上がり、ティッシュで先端を拭っている。
 窓の外は濃紺。満月が浮かんでいる。
 カーテンを締めないまま裸でいるのは、ベランダが河川敷に面しているため密集住宅のように人目を気にする必要がないからだ。

「ソンとセックスすると、なんか、吹っ切れるんだよね」

 小百合は笑みを浮かべ、煙草に火を着けるソンの背中に話をはじめた。

「だってソンも千夏と、繁殖目的でないセックスをしてたじゃん?だからなのかな」

 笑っているのは誰のためなのだろう。考えながら、小百合は笑顔をソンの背中に浮かべ続ける。脳裏で自動再生しはじめたあの男の気味の悪い声をかき消す様に。
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