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やさしいんだね
第4章 ロストバージン
 ミッフィーが佇む格子枠の中。
 ハートマークで埋め尽くされた約束の日が今日だということを、小百合は朝から何度も確認しては、期待と不安が入り混じった溜息を何度もついた。

 ざわついた教室内で、転校してきた日と変わらず、小百合はセーラー服姿でひとり、教室の隅でひとりぼっちを貫いている。

 孤独を楽しめと言った担任の八田は、宣言通りあれ以来一度も声を掛けてこない。

 3人目の子供は無事に生まれたんだろうか?
 なんてことは、小百合の思考回路をかすりもしない疑問だった。

 というより、嫁が産気づいたと言ってホームルームを半ばボイコットした翌日、誰も聞いてないし興味もないのに朝の会で「無事生まれました男の子でした」と、珍しく満面の笑みで八田自ら語ったせいもあるのかも知れない。

 どちらにしろ、子を身篭ることは一生ないと医者に宣言された過去を持つ小百合にとっては、快い話題とは言えなかった。

 小百合はテキストから顔を上げ、黒板の上の丸時計を睨みつけた。
 2時15分・・・。
 約束の時間は・・・。

 胸が高鳴る。
 今日私は、はじめて、自分の意思でバージンを捧げる。
 それも、大好きな、色黒さんに・・・。

 意思とは関係なく、今度は甘いため息が出た。

 おなかのなかからじんわり湧いて出る甘い感情。
 小百合は日々、理解せざるを得ない状況に陥っていた。
 色黒さんを好きになってしまっているということを。

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