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やさしいんだね
第2章 情熱は二種類
 やはり電話に出るべきではなかったか。


 小百合は苛立ちと後悔を抱きつつ、きっぱりとソンに言い放った。


「今日は絶対絶対無理!ていうかさ、新しい子が入ったんでしょ?その子を行かせればいいじゃん」


 右手に握ったシャーペンにぶら下がるプラスチック製の小さいウサギが、小百合の呼吸に合わせて小刻みに揺れている。

 小百合の頭の中には、先日ソンの事務所でたまたま鉢合わせした新入りの背の高い少女の姿が浮かんでいた。

 赤いメタルフレームの眼鏡を掛けたあの子。
 クラスの隅っこでぽつんと座ってそうな、すっごく地味な子。
 ダッサイショートカットヘアーで。
 分厚い一重瞼と冴えない団子鼻。
 かさかさひび割れた唇と、おちょぼ口。

 どこで拾ってきたのか知らないし知りたくもないが、商売になる気配のない子だと小百合は直感していた。

 しかし小百合には関係のないことだ。

 今日のテストで合格しなければ特進クラスに進級出来ない。
 特進クラスに進級できないということ、それすなわち、小百合が目指している、一番学力の高い公立高校の受験が難しくなるということ。

 そうなれば、身を売って金を貯めている意味が無くなる。
 生きる意味を失くすと同じ。
 だから、理解した上で、強く主張する。


「そうだ、あの子!あの子を行かせてよ!私は絶対行かない!」
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