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やさしいんだね
第2章 情熱は二種類
 頑なに首を横に振るがソンはなおも諦めずに、

〈だめだめ、あいつはいっぺんクレーム出したからクビにしたんだよ〉

 と、小百合の直感通りの回答を述べた。

 そりゃそうでしょ。あんたってセンスないの?趣味悪いよね。

 小百合は鼻で笑って悪態をつこうとしたが、先に言葉を繋げたのはソンだった。


〈なぁ小百合、今日は1割半でいいから、頼むよ〉
「無理なもんは無理だって」
〈頼みますよぉ!そこをなんとか!〉
「もうー!しつこいなぁ!切るよ!」
〈まてまてまて!言い忘れてた!今日はな、絶対小百合じゃなきゃだめだって客なんだよ〉


 ソンの言葉と同時にある人物の顔が浮かぶ。
 

 途端に小百合はさっきまで見もしなかったデジタルの卓上時計に目をやって、ホテルから塾までの道のりを計算し始めていた。

「・・・まさか、色黒さんだったりする?」

 小百合の声は期待を孕んでいる。

 ソンはくくくと笑い〈そーだよ!色黒さんのご指名!〉と言って一方的に約束の時刻を告げると、気難しい小百合の機嫌をとるために寒気がするような誉め言葉をつらつら述べた上で、やはり一方的に電話を切ってしまった。

 プー、プー、プー。
 小百合はペンとiPhoneを机の上に置くと、すぐに引き出しから鏡を取り出した。
 そして、恐る恐る中を覗き込んだ。 

 鏡が写し出したものは、まるでつくりものの人形のような、愛らしくも儚げな雰囲気の、美しい少女の顔であった。

 “色黒さん”と初めて会ったとき、彼がしつこいくらい何度も何度も綺麗だと褒めてくれた薄いブラウンの瞳で、鏡の中を凝視する。

 小百合の不安の種であった、一昨日額に出来た小さいニキビ。
 それはもう跡形もなく治ってしまっていた。

 ホッとして鏡をしまうと、今度は学校から着て帰ったままのセーラー服とプリーツスカートを脱ぎ捨てた。
 さらに下着すら身体から剥ぎ取ると、今度は大きな全身鏡の前に立つ。
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