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やさしいんだね
第2章 情熱は二種類
「ああ、この子、梨花ちゃんね。いま中1。今週入ったばっかで、今日がお初だから緊張しちゃってんだよ。なぁ小百合、先輩としてなんかアドバイスしてやってよ」

 アドバイス?
 小百合は視線を後部座席にいるみつあみの少女から、ソンの左手首にはまったデイトナに移した。

「あの、何度も言うけど21時半から塾のテストだって分かってるよね?いつものホテルでしょ?色黒さんとの約束は何時から何時?まさかこの子、帰りも一緒とかないよね?そうだったとしても、絶対わたしを先に帰してよ。万が一この子を先にしてテストを受けられなかったりしたら」
「ハハハ!分かってますよ小百合様!この子は●●のほうまで送らなきゃなんないから、もちろん小百合様が先ですよ。それにちゃあんと20時半にはお迎えにもあがりますって、塾の近くにもお送りしますって、ご心配なく」
「ならいいけど」

 舌打ち混じりにソンから視線を外し、鞄の中から塾のプリントを取り出す。
 耳にはiPod。中身は英会話だ。

 ちらりとバックミラーを見ると、後部座席の少女は俯き、今にも泣き出しそうな表情をしている。
 きっと緊張して逃げ出したくなっている彼女に、ソンがもうすぐ先輩が乗ってくるから励ましてもらえるよ、とか言ったのだろう。

 冷たい先輩だと自覚はしているが、小百合には他人に構っている暇などなかった。
 援交だろうが売春だろうがデリヘルだろうが、これはレイプではない。
 自ら望んで行う“仕事”。生きるためのビジネス。

 ビビるくらいなら最初からやらなければいい。
 泣くくらいならどんな事情でソンに拾われたのか知らないけど、断ればよかったんだ。

 金儲けは甘くない。
 中学生の私たちが自力で生きようとする現実は、甘くないんだ。

 小百合は自分に言い聞かすように思考を遮断し、プリントの文字と耳に入ってくる英会話のみに神経を集中させた。
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