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泡のように
第19章 18.
「お、女の子が、が、がん・・・そんなこと、口にするもんじゃない!」

 お兄ちゃんは咳のせいで顔を真っ赤にしながら私を叱った。
 アンタ顔射大好きじゃん、と心の中でツッコミながら湯気の立つハンバーグを頬張った。

「すごい美人な彼女だったって?」

 行儀悪くも、咀嚼しながら言った。

「私には一生結婚できないとか言ってたくせに。お兄ちゃんもけっこうやるじゃんか。腕組んで歩いてたところを見たって木戸が言ってたよ」

 お兄ちゃんは黙っている。
 伏し目がちに生えた睫毛は長く、下瞼に影が落ちている。

「それで?どんな人だったの?」

 沈黙。
 賑やかな店内には不似合いすぎる陰気なオーラ。たまに、お兄ちゃんの醸し出す雰囲気に飲まれ、こっちまで憂鬱になるときがある。今まさにそんな心境。
 重い沈黙の中、私たちのテーブルにはナイフとフォークの音のみが響いている。ふと隣のテーブルを見れば、若いカップルが他愛もない会話を交わしながら食事を楽しんでいる。
 このあとはラブホだろうか。
 それとも、別れを惜しみながら別々の家に帰宅するのだろうか。

 私たちは、別々の家に帰る。
 肌を重ねていない時はやはりお兄ちゃんが遠く感じる。
 現在の私たちは一体、何で繋がっているのだろうか。
 分からないまま普通の兄妹を装って一緒にいること自体が、ある意味不気味だ。


「彼女なんかじゃ、ないよ」

 お兄ちゃんがぽつりと呟いたのは、私が最後のハンバーグの欠片を口に放り込んだ頃だった。
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