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泡のように
第38章 37.
 笑っていてくれたら、ようやく私から解放されたと、ほっとしてくれていたら。
 お兄ちゃんが陰気な顔を歪めもせず。
 ただ、溜息をついて、踵を返して、ああ遅刻だと呟いて、もう一度溜息をついて。
 そして、振り向きもせず、立ち去ってくれたら。
 そうなら、嬉しい。
 と思う私はやはり、最低な妹だろう。





 自分本位な涙を流したまま、正面玄関のガラス戸を開け、いつの間にかギャラリーの増えたその場所で、脇目も振らずに先生の胸に飛び込んで。
 諦めた様子でほっと溜息をつく先生の胸で声をあげて泣いて。
 そして。





「智恵子はほんっと、仕方ねぇやつだな」








 って笑う先生にキスしたら。
 もしかしたら定時制高校への異動すらなくなってしまうんじゃないかってレベルでキスしたら。
 秋芳先生の人生をもっともっと狂わせるレベルで涙を流して先生の心を支配しはじめている私は。
 私の心は。
 















 これでよかったんだろうか、と、また、揺れる。















 その、繰り返し。


















【おしまい】
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