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泡のように
第4章 3.
 明くる日、学校から帰るとお母さんが出張から帰っていてホッとした。
 お母さんは今朝出張先から直接学校に出勤したとかで、普段からただでさえ悪い顔色が更に悪かった。
 相当疲れたんだろう。
 体系に似合ってスイーツ好きなお母さんからの山のようなお土産の菓子箱の包装を一つ一つ破る私の傍らでお母さんは「いじめ問題についてのシンポジウムがどうのこうの、障害を持つ児童に関する云々かんぬん」おっさんと二人で話をしていた。


 お母さんもおっさんも、市内の公立小学校教諭として働いている。二人の出会いは職場である小学校。
 私が赤ちゃんの時に交通事故で死んだ本当のお父さんも、やっぱり小学校教諭だったそうだ。



 つくづく、先生って立場の人間に縁のある人生だなぁと思う。





「あ!ちょっと智恵子、それはお兄ちゃんのお土産!」

 ひとつだけビニール袋に入っていた一番大きい菓子箱に手をかけたとき、お母さんが声を上げた。
 ビクッと震え上がった拍子に腫れた股間が下着と擦れて痛みが走った。
 今日は一日中こんな感じ。
 私の顔色も悪いだろう。

「あ、そうだ、忘れないうちにお兄ちゃんに渡してきてよ」

 えぇ、不服に声を上げたのはよりによってこんな顔でお兄ちゃんに会わなきゃいけないのか、と思ったから。
 憂鬱ながらコタツから這い出て身体を起こし、指先にビニール袋を引っ掛けて玄関を出た。
 コートを着る必要はない。
 お兄ちゃんはうちの隣に住んでいるから。

 悴む指先でチャイムを鳴らす。
 しばらくして鍵を回す音と共にドアが開いた。
 お兄ちゃんはチェーンが繋がったままの10センチばかりの隙間から訪問者を確認するために恐る恐るこちらを覗いている。

「も~、お兄ちゃん、私だよ」

 隙間に顔を近付けニヤッと笑って見せると、ようやくお兄ちゃんはチェーンを外し、ドアを大きく開いて私を招き入れた。玄関の中は懐かしい、お兄ちゃんの匂いでいっぱいだった。

「お母さんからお土産だって」

 フツウの妹ぶって頭上30センチに位置する陰気な顔に終始微笑みかけながら、ビニール袋に入った菓子箱を手渡す。

 ジャージ姿のお兄ちゃんはこわごわそれを受け取り、丸太のような逞しい腕で分厚い胸板の辺りに抱き抱えると「ああ・・・う、ありがとう」と体格とは正反対の陰気な仕草で礼を言った。
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