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泡のように
第21章 20.
 私の本当のお父さんが亡くなったのは、とても蒸し暑い日だったと、いつかお兄ちゃんに聞いたことがあった。

 佐伯さんは天国も地獄もないと言った。
 天国も地獄もなく死んだら無になるというのならば、墓石に花を手向けるのもまた、無意味ということになるのだろうか。

 先生んちから電車で2時間もかかる山奥の、見晴らしのいい集合墓地。
 セミがミンミンミンミン鳴いている、蒸し暑い昼下がり。
 つうか、炎天下。
 命日から一週間も過ぎた夏休み最終日の今日。
 どうして急に「そうだ、お墓参りしよう」などと思い立ったのか、自分でもよくわからない。
 
 お母さんが山岸のおっさんと再婚するまでは、毎年命日と彼岸に必ず墓参りに訪れていた。
 お母さんとお兄ちゃんと、一緒に。
 お母さんが再婚してからは、ずっとお兄ちゃんと2人きりで。
 でもそれも、お兄ちゃんと別れる前までのこと。

 だから、墓参りするのは3年ぶりで、そして、一人きりで訪れたのは、初めてのことだった。
 
 広い霊園内を迷いに迷ってお父さんのお墓に無事たどり着くまで1時間も掛かった。
 今まではお兄ちゃんのでかい背中を何も考えずに追いかけて歩いていただけなんだと、改めて実感した。

 一人で訪れたはいいものの、墓参りの方法もわからない。
 確かお兄ちゃんはバケツと柄杓を持っていて墓石を掃除したりしていた気がするけど、いつもお兄ちゃんが動いているのを私はただボーッと見ているだけだったから、何もわからない。

 つくづく不甲斐ないなと思う。
 
 
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