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泡のように
第22章 21.
 レイナは写真立てを強く抱きしめていた。
 
「わたし、それ以来、篤志には一度も会いに行けなかった。だって、今のまま会ったって篤志に最低な母親だって思われるだけなんだってわかったから。だから、なりふり構わず働いて、とにかくお金をいっぱい稼いで、いっぱいお金を貯めて、いつか、ひとでなしなんて鈴木先生に言われないような、篤志の母親として、ちゃんとした人間になろうと思ったの。パパが就職して、アキホが小学校に入ってからは、私も勉強しなきゃって思ってテレアポの仕事は辞めて定時制の昼間部に通ったり。パパの収入も安定して、アキホも自立した頃に、夜の仕事でお世話になってた方から、綺麗好きで整理上手なレイナちゃんに向いてる民間資格があるから試しに資格勉強してみたらって勧めてもらって、働きながらたくさん勉強して、資格を取って、それで今の仕事に就いたのよ。自営業ってはじめてだから軌道に乗るまでは大変だったけど、今ではお陰さまで夜の仕事を辞めることが出来るくらい稼げるようになったし、やっと夢だった家も買えたし。篤志にも会えたし。篤志は私を最低な母親だと罵ったりはしなかったし。いまなら鈴木先生も私のこと、ちゃんとした篤志の母親だって認めてくれるかしら?ふふふ」

 
 誰かレイナを肯定してあげてよ。
 心の中で叫んでも、誰も、肯定出来なかった。
 だって、少なくとも命日に墓参りに来るなと言われている時点で、お母さんは未だにレイナを蔑んでいることが如実に表れているからだ。

 お母さんのこともレイナのことも大好きだと思われるお兄ちゃんは、やっぱり黙って天井を見上げたままだった。

 お兄ちゃんのオーラより陰気なムードになってしまった室内に、突然、レイナの明るい声が響いた。

「そうだ!少し話は変わるんだけど!」

 レイナは写真立てをガラステーブルの上に置いて、そしてあったかい両手で私の手をぎゅっと握った。
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