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泡のように
第22章 21.
「聞き忘れてたことがあったの。どうしてあの時、パパに抱っこしてもらった途端、泣き出したの?長いあいだずっと不思議に思ってたのよ」

 急に話を振られたお兄ちゃんはビクッと肩を震わせ飛び上がった。

「えっ、べ、べつに、べつに、たいした意味は、べつに」

 陰気な顔で口から煙を吐き出しつつ、お兄ちゃんは困惑しきった表情で首を振った。
 それを見てレイナはふっと溜息をついた。

「そう。篤志っていつもそれよね。ほんと、パパにそっくり。あんまり自分の気持ちを正直に話してくれないのよね。アキホはなんでも正直に話してくれるのに。ほんと、変なところだけはパパに似てる」

 レイナは写真立てをFカップはありそうなおっぱいのあたりに大事そうに抱えつつ、更に話を続けた。

「篤志を八田先生の新しいお宅の最寄駅まで送った時にね。鈴木先生に言われたのよ。もう篤志をあんたに会わせることはないって。今回は篤志が会いたいって言ったから会わせたまでで、それは実の母親がひとでなしだって理解させて、生みの母に対する幻想と無意味な愛着を断ち切るためだったんだって。篤志のことはこちらがきちんとみるから、篤志をほんとうに愛してるならウチには金輪際関わらないでくれって。わたし泣いちゃったわよ。何も知らない八田先生がわたしのことを気遣ってくれて仕事を紹介しようかなんて言ってくれたけど、わたしもう何も言えなくって、逃げるように帰ったわ。それが、八田先生にお会いした最後の日だったんだけど」
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