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泡のように
第25章 24.
 別れて欲しいと言ったとき、先生は笑った。

 始業式が終わったあとの、閑散とした校内。
 たまたま教員たちはみな出払っていたらしく、校内と同じように閑散としていた第一職員室内の、窓際の、きちんと整理整頓された机の前。

 先生の真横の机、という史上最悪の場所で何やら真剣に書き物をしていた保健体育担当の若い男性教諭は、私の発言を耳にするや否や、驚いた顔で一瞬だけこちらを向いた。

 職員室で切り出すには、あまりにも場違いな話題であることは、いくら全教科補講追試で留年の危機があるくせに国語科担当の秋芳先生と付き合っているバカな生徒、として校内一有名な私でもさすがに理解していたけれど。

「勝手なこと言ってごめん。私やっぱりね、お兄ちゃんのことが好き。先生とは、結婚できない」

 こんな途方もなく節操のない話題をこの場所で切り出したのは、アパートで2人きりになってからではきっと切り出せないと、今朝、先生が出勤したあとのアパートに帰って、いつも一緒に食事をしていたちっさいこたつテーブルの上に、私宛の置き手紙があったのを、制服に袖を通した時に気付いたからだ。

 先生は呆れた様子で苦笑いしながら手に持っていたペンで頭を掻いて、しばらく考え込んでいた。
 そして、ちょっと場所を変えよう、と言って机から立ち上がった。

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