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泡のように
第25章 24.
 校内に喫煙所がある高校って、現代では珍しいだろう。
 職員室を出た廊下の先にある、中庭に面するベランダに続くガラス戸の向こうが、教職員専用の喫煙所になっている。
 生徒は立ち入り禁止のこの場所に私を連れ込んでいる時点で見つかったらクビなんじゃないだろうか。
 考えつつ、煙草に火をつける先生を見上げいていた。

「お前、えらいまた、急な話だな」

 焦がしたフライパンのように真っ黒く日焼けした顔が、壁にもたれて私を見つめている。

「それも、あんなとこでいきなり・・・」

 赤いマルボロの箱を握り締めたまま、先生は並びのいい歯を見せながら笑って、煙草を挟む指先でさっきみたいに頭を掻いた。
 そして、人体に有害な煙を長く深く肺の奥に吸い込んでいく。

「俺に仕返しするつもりか?ひでぇよなぁ・・・バレたら俺、お前だけじゃなくて職まで失うんだぜ」

 いつもずっと思っていた。
 先生は肺の中に煙を入れたまま、よくも平気で話が出来るよなぁって。

「昨日兄貴が電話に出たからなんかあったってのは分かってたけどよ。いきなり別れるなんてそりゃないだろ?指輪まで買ってやったのに」

 そして、よくもそんな状態で平気で私にキス出来るよなぁって。
 唇が離れてから、先生は私にあたらないように白い煙を吐き出した。

「前にも言ったと思うけどな、兄貴に抱かれようがどうだろうが、俺は別に構わねぇよ。どうせ昨日兄貴に抱かれたんだろ?それを気にしてんなら、そんなこと気にしなくたっていいぜ」
「ちがうの」

 先生が再び私にキスしたのは、もしかしたら、あとに続く言葉を阻止させるためだったのだろうか?
 なんて、思うのはやはり、自意識過剰だったろうか。

「まぁ、帰ってからゆっくり話しようや。3年も付き合ったんだぜ?こんなとこで簡単に終わらせるような問題じゃねぇだろ」
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