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泡のように
第27章 26.
 玄関の方から話し声が近付いてくる。
 咄嗟に立ち上がり、手に汗握りながら、その人が現れるのを待っていた。
 ドキドキ鳴る心臓がうるさかった。

「は?篤志の妹が?どうせまたお前の冗談なんだろ」

 なんて低い声で言いながら廊下からリビングに現れたその人は、私の存在に気づく前、日常の動作としてレイナの唇にちゅっとキスをしていた。
 お兄ちゃんと同じ髪の色で、同じくらいの体格で、そして、お兄ちゃんよりちょっと、男前な顔で。

「って、ほんとにいたよ」

 お兄ちゃんの実の父親、そしてレイナの実の兄貴であるその男は、鳶色の瞳で私の姿を捉えると、これといったリアクションもなく、一瞥しただけですぐにソファに腰を下ろしてしまった。

「すごくレアな光景」

 なんて言ってから、灰皿は?とレイナに尋ねている。

 お兄ちゃんと同じクルクルの西洋人形みたいな巻き毛が、全体的にぼさっと顎のラインまでどことなくだらしなく伸びている。
 おでこに一筋垂れた巻き毛は、汗で少し湿っていた。

「はじめまして」

 突っ立ったまま、その人に90度お辞儀をした。
 その人はレイナから灰皿を受け取ると、私とは目も合わさずに、軽く会釈して見せた。

「どうも」

 沈黙。
 レイナが笑ってくれなければ、沈黙に耐え兼ねてこの家から飛び出さなくてはいけないところだった。

「やだぁ、パパ緊張してる!」

 レイナは私を抱き締めながら言った。

「この人、篤志と同じでシャイだから」

 
 
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