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泡のように
第28章 27.
 中央環状線を抜けて国道へ入り、今度は内環状線を走る。
 おじさんは終始、何を考えているのか分からない笑みを口元に浮かべている。

「その、さっきの話とは関係のない、素朴な疑問なんですけど」

 車内の窓に映る勇気を出した自分の顔が、運転席でハンドルを握りながら煙草をふかす男を見つめている。
 いいよ。なんでも聞いて。
 お兄ちゃんの実の父親は授業が終わったあと生徒からの質問を受け付ける教師のように、あっけらかんと言った。

「お兄ちゃんがデキたとき、どう思いましたか」
「うん。嫁の冗談だと思った」
 
 予想の斜め上を行く回答に思わず目を丸くした。

「嫁には小さい頃から騙されてばっかりだったから。UFOが家の裏に不時着してるとか、さっき市場でマイケルジャクソンを見たとか。ずっとそんなことで騙されては笑われてたから、妊娠したってのも、冗談だと思ったよ」

 お兄ちゃんの用心深さは、この人に似たのだろうか?

「生まれるまで信じなかった。でも生まれたのを見て、あ、マジだったんだって思った」

 とんでもないことをあまりにもあっけらかんと語るもので、お兄ちゃんの陰気な顔を思い出して、思わず笑ってしまった。

「おじさん、バカですね」

 私の率直すぎる発言を受けて、おじさんもまた、笑った。

「まったくその通りだよ。マジだって分かっただけで、自分の子供だとは思わなかった。アキホが生まれてから、あれ?嫁が生んでる子供ってもしかして俺の子供なのかな?ってはじめて気付いたくらいで」
「マジで?救いようがないですね」
「ほんとだね」
「レイナさん1人が大変な目に遭ってるって気付かなかったんですか?」
「うん、全然気付かなかった」
「マジかよ!おっさん頭マジ悪すぎだろ!」
「君、見た目と違って案外口が悪いね!びっくりするよ!」

 おじさん、驚くところ、間違ってね?

「でもさぁ、子供がデキるってことは、レイナさんとそういう関係があったってことでしょ?どうして何も考えずにいられたんですか?」

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