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泡のように
第28章 27.
「や、ほんとにね、何も考えてなかったんだ。嫁は物心ついた頃からずっと隣にいたし。おっちゃんねぇ、今でこそこんな仕事してるけどね、子供の頃はほんと出来の悪い子供だったから、嫁が色々世話を焼いてくれててね。いつの間にか、そういう世話まで、してくれるようになってただけだから。だから疑問に思ったりもしなかったな」
「・・・引くわ。あんたバカすぎんだろ」

 敬語すら忘れて罵る私を、おじさんは困った表情で横目で見つめている。

「うん。冷静になると救いようのないバカだよねぇ。篤志が生まれて養子に出されても、アキホが生まれても、ずっと自分には関係のないことのような感覚で、部活のことしか考えてなかったからなぁ。中学でも高校でも部活、大学でも部活。途中で住んでる環境が変わったりとか、赤ちゃんが一緒に住むようになったりとか、そういうのを、自分のこととして捉えてなくて、とにかく嫁に学費がタダでいけるよう部活に励め勉強しろ結果を出せとだけ言われてたから、教員採用試験に受かるまでは、働いたことも、アキホと遊んでやったこともなかったなぁ」

 嫁には申し訳ないよ。ほんとに。
 おじさんはそう言ったけれど、これといって悪びれた様子は伺えなかった。

「おっちゃん最強だね」
「やったー。褒められた」
「全然褒めてないよ」
「え?そうなの?あーあ、おっちゃんねぇ、こんなんだから篤志に嫌われるんだよね」
「え?自覚してんの?」
「してるよ。だって嫁には会いに来るのに、俺には会ってくれないもん」
「そりゃそうなるでしょ」
「篤志が養子に出されたあと初めて会った時もさぁ、とりあえず抱き上げてみたらすっごく貧弱でほっそくて小さい身体してたからさぁ、こんなに貧弱だと一生結婚できないねぇ、まるでこの前出した粗大ゴミの発泡スチロールみたいだねぇって言ったら、泣かれた」

 お兄ちゃんの卑屈さの元凶は、こいつだったのか。

「最低すぎてむしろ惚れそうだよ」
「照れるじゃん。それでね、篤志があんまり泣くから困っちゃって、とりあえずアメフトやればデカくなるよって言ったら、泣き止んだからセフセフって感じだったよ」

 恐らく笑っていはいけない話題なのだろうが、ここまで最低だと笑いすら込み上げてくる。

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