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泡のように
第30章 29.
 私も彼氏と別れてさぁ。

 突然晴香がそんなことを切り出したのは、いつものように昼食後、中庭焼却炉裏の生徒専用喫煙所で2人、共に煙草をふかしていた時だった。

 夏休み中、私が知らないところで、というか興味すらないところで、晴香とほかのメンバーは10代後半のティーンエイジャーによくありがちな友情間の揉め事を起こしたらしく、9月に登校すると晴香はグループから外れ、1人ぼっちになっていた。

 正直グループ内の揉め事など私にとっては山岸のおっさんが仮性包茎ってことくらいどうだっていいことだったのだけれど、少し前まで私も晴香と同じ、自己顕示欲の塊を左手薬指にはめていた者として深層心理の部分で人間らしい親しみを覚えたのだろう、だから、こうして、グループから阻害されたカワイソウな晴香と共に煙草をふかす事態となったのだ。

「え?あのフェイスブックで出会った彼氏と?」
「ううん。その次の次の、社会人の彼氏。あれ?智恵子、なんで知らないの?・・・あ、そうか。智恵子、修学旅行休んだもんね」

 まさか沖縄で出会った現地彼氏?
 とは聞けず、そっかー、大変だったんダネーと、女子高生らしい相槌を打った。

「智恵子も大変だったんでしょ。秋芳先生と、いろいろ」

 当たり前のように晴香は、秋芳先生、と、彼女の中で私と別れたと仮定している男を名指しした。
 どうして知っているのか?
 尋ねる必要はなかった。

 職員室で別れ話を切り出したときに先生の隣にいた若い保健体育担当教諭が野球部の顧問であったことに気付いたのはあとになってからだ。
 生徒と友達のように親しくなることで「人気者の教師」という地位を確立しようと日々努める彼が、自分の地位向上のためにセンセーショナルな話題を彼らに与え、更なる支持を得ようと試みた結果のことだろう。

 要するに、この数日のあいだで、私と先生の破局、という、ある意味間違っていてある意味正しい噂が、私の断髪と相まって、ほぼ全校生徒の耳に入る事態となっていたのだ。
 

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