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泡のように
第30章 29.
 うん、と言えば正しいのか、ううん、と言えば正しいのか、分からず、

「別に大変とかじゃないけど。前の男が寄りを戻したいって言ってきたから」

 と暫定事実のみを晴香に伝えた。

 今更隠したって、南京錠は修復不可能なほどに壊れてしまっているのだ。
 私という人間にまとわりつく出来事を正直に話したからといって、どのような影響を懸念する必要があると言うだろう。

 晴香は「マジで?智恵子ってそういう感じの子だったんだ」と率直に語り、笑っていた。

「私のこと、もっと真面目な子だと思ってた?」
「ううん、そうじゃないけど」

 含んだ語尾には、私と先生のハレンチな噂を耳にしていたという暫定事実が滲んでいた。

「てっきり秋芳先生と別れたから髪を切ったのかと思った」
「は?まさか。いまどき、どんだけダサイ少女漫画だってそんなセンチメンタルなことする主人公は出てこないでしょ。相手は変態の秋芳だよ?」
「・・・智恵子って意外と性格悪い?」
「え?知らなかった?」
 
 晴香は派手に笑った。
 金色の前髪が汗で茶色く湿って、おでこに貼り付いている。
 浮いたファンデーションから肌色の汗が今にも滴り落ちそうだ。

「で、寄りを戻したひとって、どんな人?」

 晴香に恵んでもらったメンソールのきつい煙草を肺に深く吸い込んでから、心優しき煙草の贈り主に対し、簡素に返答した。

「教師」
「マジで!?この学校の?」
「ううん。中学の」
「えぇ!?ちょっと待って、じゃあ、中学時代に付き合ってたってこと?」

 晴香はゴキブリが腐りきった生ゴミを好むかの如く、女子高生ならば誰もが大好物である腐りきったセンセーショナルな話題に、本人が望むところよりも更に大げさに驚いて、そして、驚いている自分を楽しんでいた。

「ううん、もっと昔から」
「ちょ、はぁ!?どういうこと?」
「小学生の頃から付き合ってた」

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