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泡のように
第33章 32.
【追試受けるなら、俺の教科に関しては単位やるけど、どうする?】



 そんなメールが私のもとに届いたのは、全教科追試が決まった週明けの朝一番だった。



【まぁ、だからといって卒業出来るかは分かんねぇけど♡】



 見慣れたアイコンのふきだしが呟くセリフは、私と先生が同類の人間だということを如実に表していて、笑えた。

 先生、明らかにハートつけるとこ間違えてるから。
 心の中で冷静にツッコミつつ、しかし無意識にそのハートを指先でなぞってしまう。

 つわりで飛び込んだトイレの中。
 スマホを左手に握り締めていたのは、たまたまじゃない。
 あの晩以来、私はずっとそうしていた。
 お兄ちゃんのことを嫌いになったわけじゃない。
 そうじゃなくて。
 

【なんて言って、2人きりで会ってくれねぇかって頼むのは、教師の特権を振り翳しているようで、本当は嫌なんだけどな】


 先生はきっと今頃、あの日当たりの良いアパートで1人、部屋着から出勤用のジャージに着替えて、歯磨きをしながら、どうだっていい朝の情報番組をつけっぱなしにして、その騒がしいボリュームの中で、私にメールを送ったのだろう。
 黒いシリコンケースがついた白いスマホで。
 私と同じ、3年前に買った、スマホで。
 

【でも俺、そんなことしてでも、やっぱり山岸を諦められねぇよ】



 先生からのふきだしばかりが増える画面が、ぼやっと歪む。
 私はいつから、こんなメルヘンな女になったのだろうか?
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