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泡のように
第33章 32.
 よろめきながら立ち上がり、手の甲で涙を拭ってから、胃液で濁った便器の水を一瞥して、レバーを引く。
 私を妊娠した時つわりが酷かったと語ったお母さんの遺伝なのか、妊娠が発覚した日から私はトイレとお友達だ。

「大丈夫?」

 ドアを開ける私を、お兄ちゃんが台所から顔を出して心配そうに見つめている。
 
「うん、大丈夫」

 言った傍から吐き気が込み上げ、再びドアを締める。
 胃の中はとっくに空っぽだから、嘔吐くのが辛い。
 ずっと嘔吐感があって、だから便器を抱えて何も出てこないのに吐き出そうとする。
 おぇぇって吐こうとしても、何も出てこないことは分かっているのに。

「学校休むって、電話してあげようか?」

 妊娠9週目。
 つわりはその時期がピークだと、はじめてのたまごクラブには書いてあった。
 車酔いと二日酔いが同時に押し寄せたような激しい倦怠感と嘔吐感。
 そして、将来の展望が見えない不安と、絶対的な絶望感。
 あ、後者に関しては私個人の問題だけれど。

「ううん、行く」

 よろめきながら立ち上がり、ふらつく頭でなんとか台所のテーブルまで歩いて、椅子に腰を下ろす。
 お兄ちゃんは時計を見上げてから私に言った。

「大丈夫?お、お前がそんな状態で無理して、赤ちゃんにもしものことがあったら」
 
 もしものことがあったら?

「それって、心配してくれてると理解していいの?」

 目眩の中で見えるお兄ちゃんは、もはや笑いもしなかった。
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