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泡のように
第34章 33.
 居るかいないかも分からない平日の午前中。
 泣きはらした顔にセットすらしてないショートカット頭。
 服装はセーラー服。
 右手にはスーパーの袋。
 中身はメロン。
 左手にはスマホと先生んちの合鍵を握り締め、やってきたのは駅前の高層マンションの2階。
 オートロックの解除NOはこのまえ帰宅する際レイナが教えてくれた。
 いつでも来てねってセリフ付きで。
 だから、何の遠慮もなく、お世辞だったらと疑いもせず、レイナたちが私に気を利かせなかったように、私も自分の都合で訪れた。



 3回チャイムを鳴らしたあとで、静かにドアは開いた。


 
「あれっ、智恵子ちゃん!」


 すっぴんにセルフレームのメガネをかけたレイナの顔は、やはり40歳のおばさんには見えないくらい、綺麗だった。

「びっくりしちゃった!ごめんね、パパと一緒に寝てたの。パパが今日たまたま体育祭の代休で」

 レイナはそんなことを言いながら、ホントはさっきまで裸で絡み合ってたんでしょ?と率直に指摘したくなる乱れた衣服を正しながらふふふと笑って、いつものガラステーブルの前に私を誘導した。

「今日学校はどうしたの?もしかしてサボり?だめよーちゃんと授業受けなきゃ・・・えっ?やだっ!わざわざメロン持ってきてくれたの?ありがとー!うれしー!あとでパパが起きてきたら切って食べようね」

 レイナは私からメロンを受け取ると、この家にとっては飾りでしかないピカピカに輝いたキッチンに嬉しそうに抱えていった。
 アキホと同じくらい、レイナもメロンが好きなタチらしい。

 ふと見ると、ガラステーブルの上には、珍しく指紋がついていた。
 指紋だけでなく、黄緑色の煙草の箱と、吸殻の入った灰皿。
 そして飲みかけのコーヒーが入ったムーミン柄の黒いマグカップ。
 と、点々と零したあと。
 更にはどうでもよさそうな週刊誌まで放置されている。

 アキホが一滴でもメロンの汁を溢したら激怒してたくせに。
 あの男にはどれだけ汚されても「もう!」って言うだけなのだろうか。
 部屋もまた、自分の心と身体と同じように。

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