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泡のように
第36章 35.
「やだなぁ。お兄ちゃん、おこなの?」



 恐らくそれは、ついさっきまでドアの向こうで怒り狂っていたお兄ちゃんに向けるにはおよそ適していない発言であったとは自負している。
 その証拠に、お兄ちゃんはあからさまに気分を害した表情で、頭上30センチの位置から私の顔をじっと睨み下ろしていた。
 それはまるで。




「・・・居るなら、サッサと出てきて欲しかった」




 私の股の中に初めて指を突っ込んだときのような眼差しで。




「だって寝てたんだもん。ねぇ、そんなに急いで、なんの用件ですか?」



 ウフフと笑って見せる私を、お兄ちゃんは更に睨み付ける。




「言わなくたって、わかるだろ」

 お兄ちゃんはそれだけ言うと私の手首を掴んで強引に自分の身体に引き寄せた。
 裸足の右足が廊下のコンクリートを踏む。

「いやいや、そういうのってどうなの?熟年夫婦が離婚する原因でさぁ、ほら、ダンナがツマに愛してるとか言わなくてツマの不満が溜まって・・・ってよく聞くじゃん?そういう、かたいっぽはわかってると思ってるつもりでも相手には伝わってなかったーみたいなの多いと思うよ。特に私ってお兄ちゃんもよくご存知のとおりバカじゃん?つまりさぁ、ハッキリ言ってくれなきゃわかんないわけ」

 こんなバカみたいなセリフを吐きながら掴まれた手首を振り払おうとするのって、どうなんだろう。
 すごい力で玄関に滞在する左足を踏ん張ってこれ以上廊下側に引っ張られないようにしてさ。

「今日に限って何回も電話してきたりドアの前で大騒ぎしたりする心理を簡単に教えて欲しいわけ。なんで今日だったのか。私がいなかった6日間のあいだ何考えてたか。200文字以内で」

 ほんとは怖くてたまらないのに全然平気なふりして笑顔を繕って。
 踏ん張って。力入れて。掴まれた手首の痛みに気付いてないつもりで。
 それでいて、考えたくないのに、考えてしまう。だって。

「意味がわからない。智恵子、とにかく、兄ちゃんと帰ろう」

 握力90に掴まれたら振りほどくことは困難だと理解はしているのだけれど。

「帰らない」

 どうしても今この瞬間に振りほどかないと、また同じことの繰り返しになる。

「帰らない。私、お兄ちゃんとこには帰らない」

 それが、揺れの原因だって、分かってるから。

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