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泡のように
第36章 35.
 お兄ちゃんは私の手首を掴んだまま、黙って私を睨み続けている。
 思えばお兄ちゃんは、私が言うことを聞かないとき、よくこんな目をしていた気がする。

「私ね、お兄ちゃんのこと好きだよ」

 先生に助けてって、初めて自分の気持ちを認めて告白した時にね。
 思い出した事なんだけど。

「ものすごく好きだよ」

 お兄ちゃんはよく、私が言うこと聞かなかった時とか、自分の思い通りにならなかったときに「じゃぁもう二度と一緒に寝てやんないよ」って、ちっさかった私にさ、プイって顔を背けて言い放ったなぁって。
 
「それこそ、お兄ちゃんの赤ちゃんをこうしてさ、妊娠するレベルでさ」

 今みたいな目をしてさ。
 そうすると私は途端に不安に支配されてさ。
 ごめんなさいって謝って。
 お兄ちゃんの言うことなんでも聞くからって抱き着いて。
 そしたらいつも笑って抱き返してくれたなーって。
 あれってさ。
 ねぇ、お兄ちゃん。

「でもね」

 いつからお兄ちゃんは私を支配することで自分を保っていたの?

「私はレイナとあの男みたいにはなりたくない」

 どうしてお父さんにいっぱい愛されたことがあるのに、どうして妹という存在である私の愛を渇望するの?
 
「お兄ちゃんを愛してるってフリしながら赤ちゃんを生んで、一緒に育てていくなんてこと、私には出来ない」

 ほんとうの愛情がどんなかたちか、知ってるんでしょ?

「そんなこと出来ない」

 どうして私より愛情をいっぱい知ってるのにこんなことするの?

「だって私・・・わたし・・・」

 どうして私を支配することでしか安心を得られないの?

「お兄ちゃんには幸せになって欲しいから」

 どうしてお兄ちゃんはこんなに寂しいの?

「お兄ちゃんには、お兄ちゃんがほんとに心から愛せる人に出会って欲しいから」

 どうして?
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