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泡のように
第37章 36.
 咳が何度も何度も出る。
 顔を背けて咳き込み続ける私にお母さんは更に言う。

「同情でコトをうらむやにしてもらえるんだから。あんた、あの女の息子知ってるの?あの女とあの・・・あいつらの元で育った子供のこと、知ってるの?篤志の弟のことよ」

 知ってるよ、咳が続いて返事が出来ない。

「あの子、一度だけ会ったことがあるのよ。正確には篤志に金を貸してくれって頼まれた。そのとき、篤志の傍らにいたのよ。なんでだと思う?あんた、分かる?」

 咳が続いて。

「篤志の貯めた金だけじゃ足りないから、金を貸して欲しいって。親には迷惑かけれないって。あんた、それがどういう意味か、分かる?」

 咳が、咳が。

「生き別れた兄貴の義理の母親にまで金を貸してくれって、そこまでして本来の自分を痛めつけて生きなきゃいけなくなるような両親のもとに育つってことがどんなことか、あんた、分かるの?あんなにせもののからだにして、でも、最後のものだけは取れずに、更に自分を痛めつけるような男としか暮らせないあの子のことが、もしもあれが篤志だったらって、そんなふうに考えてしまうお母さんの気持ちが、あんたに分かるの?」

 咳が。

「・・・なんて。バカなあんたに言っても仕方ないことよね。ま、これも運命だったのよ。どのみちお母さんは篤志を大事にしてるつもりで、結局ろくでなしにしてしまった。健児さんが死ぬとき名前を呼んでくれないのは当たり前のことね。その責任はお母さんにあるわよ。お母さんが若かったらねぇ。それこそ、あんたみたいにスリムで可愛かったら。お母さんこそ篤志と結婚したいくらいだわ。あの子のこと可愛くて仕方ないもの。赤ん坊の頃からなにも変わらないわ。あんたね、勘違いしないでよ。篤志が家を出ていくまではね、篤志はお母さんのものだったんだからね」

 止まらなくて。

「まったく。つくづく、可哀想な子だわ。篤志って」

 



 止まらなくて、ほとんど。





「もともと壊れてたのにね。お母さん、一体なにを恐れてたのかしら。壊れてると自覚して壊れていく自分が怖かったのかしら。まぁどうせ、すべて運命だったのよ。仕方のないことだわ」






 聞き取れなかった。


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