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泡のように
第9章 8.
 ウチに帰ったのは、6月初旬だった。
 結局2ヶ月近く先生んちに居座っていたことになる。
 しかも教科書や着替えをバッグに詰め込み終わったらまた先生んちに帰るつもりで。

 日曜日の午前中だからお母さんがいるかなと思っていたのに、いたのは運悪くおっさん一人だった。

「どうせ本当は友達なんかじゃないんだろ」

 おっさんはズボンを上げながら私に背を向けたまま言った。垂れないうちに股間をティッシュで抑える。シャワーで流してパンツを穿いたらさっさと家を出よう。今まではウチ以外帰る場所がなかったから我慢していたけれど、一度他所に居場所を見つけてしまうと我慢する気が失せる。私くらいの年齢で家出して風俗なんかに身を売る少女の気持ちが今ならわからなくもない。

「ロクな大人にならないぞ。そんな歳から男と暮らすなんて」

 ロクな大人にならないって。
 あんたが私を初めて抱いたとき、私は14歳だったんだよ?
 まるで他人事みたいに。
 無視を決め込みシャワーで股間を流す開けっ放しの戸口に立ち、私の背後でおっさんは煙草を吸っている。

「あっちいってよ」

 惨めな気持ちだ。されてることは頻度的にも内容的にもまだマシなのに、おっさんと同じ空間にいるだけで惨めな気持ちになって仕方がない。
 ロクに身体を拭かないまま服を着てバッグを握りしめた。玄関で靴を履く。おっさんはまだしつこく背後に立っていた。

「なんなのよ!」

 ヒステリックな叫び声が家中に響く。
 おっさんはまるで私を抱いたことなんかないような、真面目な父親の顔をして言った。

「智恵子が帰らないって話をしたら、篤志君が心配して毎晩探し回ってたぞ。母さんのとこに連絡があったって話したら安心してたけど、ちゃんと篤志君に心配かけたことを謝ってから男のとこに帰りなさい」


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