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泡のように
第12章 11.
お母さんが倒れたのは夏休みに入る直前の夜中のことだった。
ふ、不摂生が祟ったんだ。
電話口の向こうでお兄ちゃんはそう言って、ちょっと怒っていた。
以前からお母さんに「母さんちょっと太りすぎ。痩せるか運動したほうがいいよ。それにいい年して煙草なんて何考えてるのか分からない」と散々忠告していたお兄ちゃんらしいといえばそうなる。
頭の血管が切れちゃう、なんて言うんだっけ。そーゆー病気。
先生は「えーマジやべぇな、それってくも膜下とかじゃねぇか」と言ってたけど、あとから主治医に脳梗塞だと説明を受けた。
四大卒でも頭脳レベルに大差ないような気がしてきたのは、あんな告白をしたあとでも先生が私と別れずにいるからだろうか。
「あら智恵子?」
大学病院の入院病棟は建て替えたばかりでどこもかしこも新しく、点滴の匂いがフロア中に充満していた。
6人部屋の窓際。大きな窓ガラスに吊り下げられたモスグリーンのカーテンの隙間から見える空はまだ暗い。
天井から吊られた水色のカーテンで締め切られたベッドに顔を覗かせると、点滴に繋がれたお母さんは顔と同じように目をまんまるくして驚いていた。
「お母さん大丈夫?」
小声で尋ねてから、ベッドサイドに重ねられた丸いパイプ椅子をひとつ下ろし腰掛ける。
「びっくりしたよ。気分はどう?」
「あんた、どうやって来たの?」
お母さんの口調は若干呂律が回ってない感じがしたけど、いつもと変わらずハキハキしていた。
「え、あぁ、友達・・・の親に車で送ってもらった」
「まぁーこんな夜中に?人様に迷惑掛けてまったく・・・。お母さんとしてはね、どうせなら朝になってから着替えを一緒に持って来てもらいたかったわ」
お母さんは暗がりに苦々しい表情を浮かべ、小声で悪態をついた。
急いで駆け付けたものの、思いの外ピンピンしていたもので少し拍子抜けしてしまった。
「わかった・・・また今日中に着替え、持って来るよ」
お母さんには見えないように中指を立てながら答えた。当然気付くはずのないお母さんはようやくまんまるい顔にうすく笑みを浮かべた。
ふ、不摂生が祟ったんだ。
電話口の向こうでお兄ちゃんはそう言って、ちょっと怒っていた。
以前からお母さんに「母さんちょっと太りすぎ。痩せるか運動したほうがいいよ。それにいい年して煙草なんて何考えてるのか分からない」と散々忠告していたお兄ちゃんらしいといえばそうなる。
頭の血管が切れちゃう、なんて言うんだっけ。そーゆー病気。
先生は「えーマジやべぇな、それってくも膜下とかじゃねぇか」と言ってたけど、あとから主治医に脳梗塞だと説明を受けた。
四大卒でも頭脳レベルに大差ないような気がしてきたのは、あんな告白をしたあとでも先生が私と別れずにいるからだろうか。
「あら智恵子?」
大学病院の入院病棟は建て替えたばかりでどこもかしこも新しく、点滴の匂いがフロア中に充満していた。
6人部屋の窓際。大きな窓ガラスに吊り下げられたモスグリーンのカーテンの隙間から見える空はまだ暗い。
天井から吊られた水色のカーテンで締め切られたベッドに顔を覗かせると、点滴に繋がれたお母さんは顔と同じように目をまんまるくして驚いていた。
「お母さん大丈夫?」
小声で尋ねてから、ベッドサイドに重ねられた丸いパイプ椅子をひとつ下ろし腰掛ける。
「びっくりしたよ。気分はどう?」
「あんた、どうやって来たの?」
お母さんの口調は若干呂律が回ってない感じがしたけど、いつもと変わらずハキハキしていた。
「え、あぁ、友達・・・の親に車で送ってもらった」
「まぁーこんな夜中に?人様に迷惑掛けてまったく・・・。お母さんとしてはね、どうせなら朝になってから着替えを一緒に持って来てもらいたかったわ」
お母さんは暗がりに苦々しい表情を浮かべ、小声で悪態をついた。
急いで駆け付けたものの、思いの外ピンピンしていたもので少し拍子抜けしてしまった。
「わかった・・・また今日中に着替え、持って来るよ」
お母さんには見えないように中指を立てながら答えた。当然気付くはずのないお母さんはようやくまんまるい顔にうすく笑みを浮かべた。