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泡のように
第12章 11.
「そうして。まったく、あんたに電話したの、お兄ちゃんでしょ?あの子ね、昔からオーバーなのよ。倒れたって言ったってたいしたことなかったのにこんな時間に智恵子にまで連絡して。まぁ、ちょっと入院してリハビリしたら大丈夫らしいから、あんたもお母さんのこと心配する暇があったら自分の進路をちゃんと決めなさいよ。わかった?」

 進路、心がズンと重くなる。
 結局、あの日以来薬は一度も飲んでいない。
 先生との関係も変わらず。さっきお兄ちゃんから電話があった時だって私たちは裸で絡み合ってたし。

 思い出したとき、火照ったままの股間にドロリと気持ち悪い感触がした。奥に溜まっていた精液が垂れてきたんだろう。

 お母さんが望んだ通り、私はきっとお嫁に行くことになるはずだ。
 若くて綺麗なうちに。
 そして、でかい腹で卒業式に出席する可能性も、高いだろう。
 
「うん…ていうかお母さん本当に大丈夫なの?」

 心配する私をよそにお母さんは忌々しく鼻を鳴らした。

「フン。大丈夫じゃなかったら大丈夫なんて言わないわよ。医者もオーバーなの!さぁさぁ、あんたがここにいたって何にもならないから、早く帰って寝なさい。ていうかあんた、いい加減ウチに戻って来なさい。進路も決まってないのに遊んでばっかりでまったくバカだよあんたって子は・・・どんな友達か知らないけどね、こんなに長居したらオウチの方が迷惑してるはずよ。さ、早く帰りなさい。お兄ちゃんがさっき出てったばっかだから、追い掛けて一緒にウチまで乗せてもらえばいいわ」

 お兄ちゃんの陰気な顔と、陰気なオーラによく似合うお兄ちゃんの黒い原付バイクが頭に浮かぶ。

「え?原チャで2ケツして帰れってこと?」
「違うわよぉ、ああ、あんたまだ知らないのか。お兄ちゃんが車買ったのよ。コツコツお金貯めて一括でさ。軽だけどね。まぁー、車のある生活って便利よ。ちょっと待って、電話してあげるから」

 お母さんは嬉しそうな顔で、点滴に繋がれた手でケータイを鳴らした。

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