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傍にいてもいいの?
第11章 傍にいてもいいの?
「ひとみ、行くよ?」
腰に手を回され、手を引かれて歩き出そうとする。
けれど、あたしの心は拒否反応。
「や....いや、行きたくない」
あの広いホテルの部屋で感じた悲しい気持ちが蘇る。
最後は佑典さんが迎えに来てくれたけれど........。あの日、あの部屋で苦しめられた負の感情を思い出すと悲しくなる。
いま、あたしの隣に居るのが佑典さんだとしても。あの日の記憶は、あたしを暗闇に引きずり込む。
浅川社長や由梨子さんの言葉が頭の中でリプレイしていく。
思い出したくないのに........
こんな辛い記憶、消えてなくなればいいのに........
二の足が出ないあたしは、佑典さんのジャケットを握りしめてお願いをする。
「佑典さん、ごめんなさい。ここは....「だからだよ」
あたしの言葉に重なるように佑典さんが一言。
見上げた佑典さんの顔はとても優しかった。
「そのひとみの記憶を楽しくて嬉しいものにしたくて連れてきた。今は辛いかもしれないけれど........少しだけ。頑張ってくれないかな?」
掛けられた言葉もあたしを想ってのもの。
なにも言えずにただ見つめていると、いつものように優しく頬を撫でてくれた。
「約束する。ひとみにとって幸せな時間をプレゼントするよ」
「ほ....ほんとに?」
「もちろん。大切なひとみに嫌な思いはさせない。だから、俺を信じてくれる?」
抱き寄せる腕が強くなり、密着度が増す。そうなると、必然的に佑典さんとの顔が近づいてしまう。
ここまで近いと、きっとあたしの顔は赤くなってるはず。
「ひとみ?」
「な、なんですか?」
「ドアマンがずっと待っていてくれてるんだけど........そろそろ歩けるかい?」
「え?」
そう言われて後ろを振り向けば、とても困惑したドアマンの姿が........。
「内藤さま。キーをお預かりいたします」
「あぁ、頼むよ。いつもありがとう」
「失礼致します」
佑典さんがキーを渡すと、今までのっていた車は地下駐車場へと消えていった。