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藍城家の日常
第5章 謎の黒兎の瞳も赤

それは蒸れるような夏の盛りも過ぎて、涼しい風が頬を撫で始めた秋のこと。


『ん……、』


褐色の無骨な手が、誉が口にくわえていたそれを引き抜いた。

布団に力なく横たわっている誉。
彼女の白い頬は全体的に赤みを帯びていて、瞳もトロンとおぼろげに潤んでいる。

汗で額に張り付いている髪を鬱陶しそうにかき分けて、誉は溜め息を吐いた。

目の前に座っている彼は、誉の口から引き抜いたそれの先を見つめて、眉をひそめたまま喉の奥で小さく唸った。


「風邪だな、こりゃ……」

『風邪……』

「あぁ。季節の移り目にお前はいつも風邪をひくだろ?こういう時期は気温が上がったり下がったり不安定だから、あれほど気を付けろと言ったのに……」


体温計を静かに置いた彼、炎鬼は燃える炎のように赤い髪をぐしゃぐしゃとかいて、溜め息を吐いた。

よく焼けた小麦色の肌は、健康的で夏の匂いがしてきそう。


「はぁ、全く……夜に腹を出して寝たりでもしたのか?」

『お腹って、いうか……えっと』


誉は思わず口ごもって、熱くなる顔を布団に埋めた。
だって夜は、

夜は……基本服は着ないで、夜光様に抱かれたまま眠るのだから……

布団にくるまってもぞもぞしている、そんな彼女に、炎鬼は不思議に思いながらも、久しぶりに誉と話せる機会が訪れて嬉しく思っていた。

ただ、彼女が風邪をひいてしまったのは残念だが。

体の弱い誉。
彼女が風邪をひくと、毎回のように看病をしていた炎鬼にとっては、今の状況がとても懐かしく感じる。


「……」


連絡は突然にあった。
気に入らないが、あの誉の夫になったであろう男の屋敷に仕える女ーー架音から、誉が体調を崩したのだが看病に自信がないということで来てほしい、との連絡があったのだ。

ちょうど国の公務も終わって、妹への会いたさにほろりと寂しく感じていた頃だった炎鬼は、こうして駆けつけて来たのである。

来てそうそう夜光に会ったが、この前の様子と比べて随分角が取れていたような気がしたと炎鬼は思った。
ただしそれは誉に対してで、炎鬼には塩をかけてきそうな空気を放ってくる。

もちろん炎鬼だって夜光のことは気に食わない。



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