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藍城家の日常
第5章 謎の黒兎の瞳も赤
だけど曲がりなりにも、誉と夜光には繋がりがある。
夜光は本当に誉を妻として見ているのかは定かではないが、誉は夜光を知ろうと日々頑張っている。
そんな妹の健気さがあの男にはもったいない。
誉にはもっと見合った相手がいるはずだ、もっと、こう……
「……」
炎鬼は考えるのを止めた。
「なぁ誉、無理してないか?こっちでの暮らしは大丈夫なのか?あの男に酷いことをされていないか?もしそうだったら、いつでも俺に相談していいんだぞ……」
炎鬼は布団から顔だけ出してこちらをじっと見つめている誉の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「離れていてもいつだってお前の味方だ。誉、お前はいつも俺が仕事で忙しいからとか、気を遣って遠慮がちにするけど、そんな必要はないからな。困ったことがあったら言うんだぞ、約束だ、分かったな?」
『、』
誉はちょっと瞳を揺らして、こくんこくんと小刻みに頷いた後、心地よさそうに目を瞑る。
炎鬼兄さんに撫でられるのは久しぶりだ。
やっぱり、夜光様に撫でられるのとは違う安心感がする。
夜光様に頭を撫でられると安堵と同時に胸が締め付けられるようにきゅっとする。
だけど炎鬼兄さんの手は、私をどこまでも安心させてくれる……
生活の中で自然と張りつめていた心がほどけるような感覚がするのだ。
いつもは忙しくてあまり来られない炎鬼兄さん。
誉は自分が風邪をひいてしまったことに、少し感謝した。
『炎鬼兄さん、ありがとう……』
「なに、そんなの当たり前だ!俺はお前の、兄だから……さて、と粥を作ろうか?何か食べないと治るものも治らないぞ。そうだ、お前が好きだった蜂蜜と檸檬の甘い粥でも作ろってやろう」
炎鬼の提案に誉は力なく頷く。
炎鬼は氷枕を変えたり、部屋の空気を入れ替えたり、事細かに看病してから粥を作りに席を立った。
すぐに作って戻ってくるから、と言い残して。
誉は返事の代わりに小さく微笑んだ。
部屋を後にする炎鬼を見送ると、寝返りを打って開いた窓の外に広がる空をぼんやり眺める。