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藍城家の日常
第4章 手取り足取り腰取り
もうそこまで昇り詰めている感覚に震えながら、誉はとろけた瞳にぼんやりと部屋を映した。


(あれ……?)


おかしい、幻覚が見える。
夜光様が居る……

彼はまだ出張中のはずで、思っているより自分は寂しいのかもしれない、彼に会いたがっているのかもしれないなんて、誉は熱で浮かれた頭で考える。


「随分楽しそうだな……誉」


(あれ……?)


まさか幻聴まで聞こえるなんて。
これは重傷だ。

姿も、声も、こんなに鮮明でハッキリしている。

…………本当に幻覚で幻聴?


『……』

「無視か?良い度胸だな……」


くっと皮肉る時に見せる笑みを見て、誉の頭は徐々に頭が覚めてくる。


ちょっと、待って……


「何を呆けている?さっさと続ければいいだろうが……」


ひょっとして、いや、ひょっとしなくても……


「……誉」




本物。

夜光は、部屋の戸の柱に頭をもたれさせながら腕を組んで、着物を乱して自分を慰めていた誉を冴えた表情で見下ろしていた。


『きゃああああああ!!』


キーンと響く甲高い誉の叫び声に、夜光は顔をしかめて指で片耳を塞ぐ。


「うるせぇ……ピーピー喚くな」

『な、なんっ、なんでっ』


どうしてここに!?
誉はあんぐり開けた口を必死で動かす。


「案外早く仕事が終わったから帰ってきて何が悪い……とりあえず茶でも飲もうと思ってお前を呼ぼうとしただけだ」

『あっ、お、おちゃ、お茶ですね!?すぐに淹れます!!書斎に持っていきますね!?』


パニックになりつつ、物凄い勢いで、服を整え布団を畳み、彼を見ずにさかさかと部屋を後にした誉。
廊下を小走りするも足元がおぼつかないでいる。


(見られた、見られた、見られてしまった!!)


顔から火が出るどころじゃない。穴が無くとも自分で掘って入ってしまいたい。今すぐ光の粒子になって消えてしまいたい……

誉はふらふらと放心状態で台所へ向かった。
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