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藍城家の日常
第4章 手取り足取り腰取り
ーーーー書斎にて。


誉は夜光と合わす顔がなくて、げんなりとした表情でお茶を持ってきた。
震える手を何とか動かして机の上に湯気が立ち上る湯呑と菓子を置く。

そこからすぐに立ち去りたかった自分がもちろん居たのに、久しぶりに彼を見て話をしたいとうずうずしている自分も居る。

彼が出張中に起こった屋敷の身の回りのささやかなこと。
庭に植えてある花の芽がやっと出たことや、自分が小豆の入ったかごをひっくり返して、架音に怒られながら一緒に拾ったこととか、本当にささやかなこと。

そういうことを誉が話すのを、夜光は何か他のことをしながらもきちんと聞いてくれるのだ。

だからいつもの流れで、思わず誉は口を開いてしまった。



『や、夜光様……』

「……何だ」

『御仕事お疲れさまでした。まさかこんなに早く帰ってくるとは思わなくて、お風呂やお夕飯の用意はまだできておりません。それで、今から取り掛かりますが、あの……その、先程は……』


腰かけている夜光の隣に立っている誉は視線を下へそらし、お盆を胸に抱いたまま口をもごもごと動かしている。


「確かにそうだな……次からは何かしらの連絡をする……先程?あぁ、お前が布団の上で真昼間からしていたことか?」


ギッと軋んだ音を立てて、夜光は書斎の椅子の背もたれに身を預けながら、書類に目を通している。


『!あ、あの、それは……!』

「弁解するつもりか?それとも、見た通り欲求不満だから抱いてくれと誘っているのか?どっちだ?」


彼の声が素っ気なくて、誉は知らず冷や汗をかいていた。
横顔も何となく冷たい印象を受ける。

あんな姿を見られて、幻滅されてしまったーーー

どうしよう。

誉は何も言えなくなって、口を噤んだ。


「……何とか言え」

『あ、ご、ごめんなさい……普段の役割を怠り、あのようなことをした私をどうかお許しください……本当に、すみませんでした……っ』


こちらに目を向ける夜光の顔をやっと見つめて、誉は小さく震えた声で謝る。


(あぁやっぱり、怒ってらっしゃる……?幻滅されてしまわれたのだろうか)

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