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§ 龍王の巫女姫 §
第10章 春節の夜
そうやって庶民と大差ない衣に身をやつした二人が外に出ると、辺りはちょうど日暮れ過ぎ──。
水鈴が連れ去られていたこの邸宅は、あの臣下の男が言っていたように王宮の外であった。
けれど都には近いらしい。
仰々しく建てられた門を通り抜ければ、そこは人々の行き交う賑やかな広路。
「……!」
慌ただしく駆ける商人達は
荷台を引き、馬を連れ、鈴を鳴らして売り込む。
夕餉( ユウゲ)の準備だろうか。籠いっぱいに食材を詰めた女が、裾を乱して走っている。
“ この光景、…見覚えがある ”
水鈴は、村のみなに内緒で都におりた…あの日の事を思い出していた。
彼女は此処へ来たことがあるのだ。
あの時はただ都に興味を抱き、都に憧れ……
無知な水鈴は、踏み入った此の地の洗礼を受けたのだった。