この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
§ 龍王の巫女姫 §
第11章 残酷な好機
炎嗣に抱き寄せられた水鈴は、燭台を捨て自由になった両手を彼の肩に置いた。
その手で彼にしがみついた。
別に彼女だって死にたくなどないのだ。
けれど自分だけが目的もなく悠々と生きるなど…神が許してくれると思えなかったのだ。
哀しい現実から逃げ出す手段を、他に思い付かなかったのだ。
「……う…ひっ、く…うう…」
「死ぬことは許さない…絶対に」
逞しい胸に受け止められ、労るように髪を撫でられると、おさまりかけていた涙が再び溢れだす。
炎嗣の上衣を彼女が引っ張るものだから、衿がはだけて包帯を巻いた身体が露になった。
水鈴はそこに濡れた鼻面を押し付けて泣いた。
「逃げることも許さない。これが──…八年前に俺が犯した大罪への、せめてもの償いだ」
「…ぅ…う…、ふ…っ」
声をあげて泣きじゃくった。
…幼子のように。
夜のしじまに、その泣き声は零れ続けた。