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§ 龍王の巫女姫 §
第16章 淡く儚く 愛おしく
あの頃と同じやり取りも
今ではすっかり虚しく感じる。
「誤魔化すのはやめて。誤魔化さずにきちんと話して…」
「…誤魔化すなど、何のことか──…」
「嘘はいけないわ!」
「……っ」
花仙は足を止めて首だけで振り向く。
「──…確かに、そうですね。私は嘘つきだ」
ふっと力が抜けたのか、木の根本に腰を下ろした。
幹に背を預けた彼を見下ろして、この時に水鈴は彼の衿元からのぞく切り傷に気が付いた。
それはあの悲劇の夜の…血だらけの花仙の記憶を呼び起こす傷──。
「……っ」
いくら会話で誤魔化しても、あの頃とは何もかもが変わってしまったのだ。
気にしないふりをして以前のように話すことなんてできないし、だからこそ虚しい。
「何から話すべきか…」
花仙は腹をくくったか、言いにくそうに言葉をつむぐ。