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§ 龍王の巫女姫 §
第17章 氷の中の乙女
鞍も付けていないその馬は一目散といった感じに梅の森から逃げていた。
こちらに向かってくる。
朱雀大路での事もあり、炎嗣は一瞬足を止めて身構えていた。
しかし心配の必要なく
馬は少し軌道を変えて、直に見えなくなる──。
“ 手綱が付いていた…野生ではないな ”
何故、このような所に?
疑問に思った直後、老婆が言った言葉が脳裏に浮かぶ。
『 水鈴様は馬を連れて…── 』
「まさか」
嫌な予感がする。
「水鈴?」
馬を連れて出掛けた筈が
どうして馬だけが逃げてきたのか。
何かに怯えていた風な仔馬の様子が気がかりだ。
炎嗣は丘を下る足を早めた。
白い花びらがちらほらと舞う、森の奥を目指して急ぐ。──水鈴がそこにいる筈だ。
「…? 彼処にいるのは…」
その時、木々の影から姿を見せたひとりの男。
男の腕に抱えられていたのは間違いなく水鈴だった。