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§ 龍王の巫女姫 §
第20章 史書から消えた物語
周囲の池の中──
何に驚いたのか鯉が跳ねて、小さな水音が四阿に届く。
「──…炎嗣( エンシ )」
それに負けてしまいそうな弱々しい声で、光丞帝は呟いた。
「決めたぞ、お前にこの名を賜わおう」
「…良い名です」
少年が何も返さないので代わりに蒼慶が頷いた。
“ 俺の名前…? ”
そんなものが必要なのか。
「私はお前をこの名で呼ぶ。わかったな炎嗣よ」
「──…」
そうか、名とは
呼ばれるためにあるものなのだ。
炎嗣と名付けられた少年は、そんな当たり前の事を静かに思い出していた──。