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§ 龍王の巫女姫 §
第21章 黒髪の兄弟は束の間に
季節が変わり、秋晴れの空。
「どうかしましたか?」
「…っ 蒼慶様…」
既に花の落ちた百日紅( サルスベリ )の木々が並ぶ庭園を、慌てた様子で走っているのは炎嗣の教育を任された学者のひとりだろう。
「炎嗣様がお姿をくらませてしまいました…っ」
やっぱりだ。
「こちらで見かけられましたか?」
「いや…僕は見てないな」
詩経を片手に立つ蒼慶は、学者の男を前に気の毒そうな顔をする。
「後で僕が探しておきます。どうぞ、今日は帰られて構いませんよ。あなたも大変でしょう」
「ははあ…」
毎度毎度…手のかかる生徒に彼も苦笑いだ。
「次こそは…っ 炎嗣様を捕まえて見せますとも。──では失礼致します」
「お疲れ様です」
学者の男は諦めて立ち去る──。
ハァ…
「───こら」
それを確認した蒼慶は
誰にとも言わず声をかけた。