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§ 龍王の巫女姫 §
第21章 黒髪の兄弟は束の間に
「…ん、まぁその話は、後にしようか」
蒼慶の表情がパッともとに戻った。
その代わり、炎嗣はしかめ面だ。
「とにもかくにも忙しくなりそうだからね。いいじゃないか、桃源郷でゆっくりしてきなよ」
「…、別にいいけど」
「…よし」
何が「よし」なのか知らないが、ひとりで頷いた蒼慶は周りを見渡す。
周りの商人と、賑やかな出店。
「ここに君と来た理由は、せっかくだから二人で餃子を食べたいと思ったんだよね」
「餃子を?…なんでだよ」
「もうすぐ春節だろう?少し早いけれど、桃源郷に行く前に二人で食べないかい」
春節に餃子……
確かにそれは定番だ。
手作りの餃子を、家族皆で輪になって食べる。
それがこの国の定番で…
だが、家族のいない炎嗣には無縁のものだった。
「俺は…どうでもいい」
「じゃあ決まりだね、よーし、店を探そうか」
宮中の料理に餃子は出てこない。
だから炎嗣は" 春節の餃子 "を食べたことがない。
それは蒼慶も同じ。
「一度くらい…兄弟らしいことしたかったからさ」
何故それが、このタイミングなのか。
炎嗣はあえて尋ねなかった。