この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
§ 龍王の巫女姫 §
第21章 黒髪の兄弟は束の間に
「…李国の息は絶える寸前だ」
前を歩いていた蒼慶も立ち止まった。
「国の滅亡には混乱が付きまとう。混乱と…流血だよ。そしてそんな血の海の中でも、甘い蜜を吸いたがる連中がいる」
「……誰だよ」
「じきにわかる、彼等は動き出しているんだ。自分に都合のいい王を擁立するか、はたまた自身がその地位につくか…値踏みの最中さ」
でも─
と、蒼慶は深刻な表情を作って言った。
「…でも僕はそれを許さない、から」
「……」
「だから負けられないんだ」
負けられない。
自分には預言という切り札が与えられたから。
それを無駄にはできないから。
「父上は君に何を期待したのだと思う?」
「…知らない…っ」
「……王の資質だよ」
その戦いに勝つために
とどめの切り札が必要なのだ。
「炎嗣…君はいつまでたっても強情で我が儘だ。けれど不思議なことに周りの人間は、君に愛想を尽かすことない」
言うことをきかない炎嗣に
楽しげに振り回される女官や学者達──。
人の懐にすんなりと入ってしまう天性の魅力。
そうだ、これこそが王の資質。
蒼慶が持ち合わせていないもの。
彼が待ち望んだ素質だった。