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§ 龍王の巫女姫 §
第21章 黒髪の兄弟は束の間に

「…李国の息は絶える寸前だ」

前を歩いていた蒼慶も立ち止まった。

「国の滅亡には混乱が付きまとう。混乱と…流血だよ。そしてそんな血の海の中でも、甘い蜜を吸いたがる連中がいる」

「……誰だよ」

「じきにわかる、彼等は動き出しているんだ。自分に都合のいい王を擁立するか、はたまた自身がその地位につくか…値踏みの最中さ」


でも─

と、蒼慶は深刻な表情を作って言った。


「…でも僕はそれを許さない、から」

「……」

「だから負けられないんだ」


負けられない。

自分には預言という切り札が与えられたから。

それを無駄にはできないから。



「父上は君に何を期待したのだと思う?」

「…知らない…っ」

「……王の資質だよ」


その戦いに勝つために
とどめの切り札が必要なのだ。


「炎嗣…君はいつまでたっても強情で我が儘だ。けれど不思議なことに周りの人間は、君に愛想を尽かすことない」


言うことをきかない炎嗣に
楽しげに振り回される女官や学者達──。

人の懐にすんなりと入ってしまう天性の魅力。

そうだ、これこそが王の資質。
蒼慶が持ち合わせていないもの。


彼が待ち望んだ素質だった。



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