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贄姫
第1章 壱

「な、誰よ、あんた…」


「俺か?」


他に誰がいるのだ。
椿が頭の中で毒づくと、するすると視界がクリアになり始めた。


「ったく、うるせーな」


その男は舌打ちすると、黒い目の色がみるみる真っ赤になる。
外に向かって何か呟くと、黒い塊が一瞬にして吹き飛んで散った。
椿を襲おうと、渦巻いていた妖たちだ。
周たちが苦労しているのも物ともせずに
一瞬で吹き飛ばした。
その妖力の高さに、椿は驚いて息を飲み込んだ。


「…あんた、何者?」


椿は頬を片手で摘ままれた。


「小娘、口のききかたに気をつけろよ。
俺をなんだと思ってるんだ。
せっかく気持ちよく仙人を凌辱してたのに。
いきなり召喚陣が現れてこの様だ。
お前がまず名乗って、説明しろ」


仙人?
凌辱?


椿の頭がさらにパニックになる。


「あ、周…助けて…」


不意に、口をついて出た名前。
いつもそばにいる、幼馴染の婚約者。


「周? あの男か?」


その恐ろしいほど美しい男の赤い視線の先を追うと
畳に赤い染みを作って
その血だまりの中に周が倒れこんでいた。


「いや、周っ!」


「あれが俺を召喚した術師かよ。
俺を呼び出せる力は認めてやるが
あれくらいで死ぬようじゃ
ろくな陰陽師じゃねーな」


その言葉に椿の頭に血が上った。


「ふざけないで!
あんたほんとになんなのよっ!」


なんなのよ、ともう一度繰り返した声は
嗚咽にまみれた。
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