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贄姫
第1章 壱
「お待たせして申し訳ありません」
襖越しに傅いた青年は
父の頷きと同時に顔を上げる。
「なに、周(あまね)までそんな顔して…」
幼馴染の精悍な青年の表情を見て
椿はやっと怯んだ。
周は椿と幼少からずっとこの家で過ごして来ていた。
それこそ、両親よりもはるかに身近な存在だった。
その彼が、いつも以上に真面目な顔をしているのが
椿にとって嫌な予感となった。
「椿、ちゃんと座れ」
周の気迫に押されて
座りはしなかったものの、
しぶしぶ耳を傾けることにした。
「椿、いや、贄姫…」
父の渋い声と、いきなりその忌々しい呼び名を呼ばれて
椿はたじろいだ。
これは陰陽師の家系である
英(はなぶさ)家では、言わずと知れた呪いだった。
「なによ…その呼び名で呼ばないでよ、気色悪い…」
父親が、椿を射るような視線で貫いた。
その場の空気が凍りつく。
そんな緊張感が漂った。
「17の誕生日に、お前には儀式を受けてもらわなければならない。
お前が……贄姫だからだ」