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贄姫
第2章 弍
しかし、椿に牙を立てたのは、瓊乱の間違いだった。
のその血の匂いに瓊乱の方が気がそれてしまった。
それほどまでに、椿の血は芳しい。
それは、贄姫と呼ばれる呪いゆえの独特な香りだった。
「この、やろう…」
「やろうじゃないわ。女だもの」
「上等だ、椿」
角を封じられた反動からか、瓊乱の腕の力が一瞬弱まる。
それをついて逃げようとする椿を
それでも引っ張って抱きとめると
卒倒するような美しさでにんまりと笑い唇を奪った。
「悪いが、返せ」
何を、と思った時には
全身の力が抜けてあっというまに瓊乱の腕の中にくずおれた。
椿が動かないのを見てから、美しい顔に狂気を乗せて
瓊乱は周を睨みつけた。
「角で倒れる俺じゃないんだが…こいつは、まずいな。
力が強すぎて…」
そう言って、瓊乱がばたんと畳の上に倒れ落ちた。
しゅうしゅうと音を立てて
瓊乱を覆っていた邪気が収まっていく。
それを見届けて、やっと周もホッとしてその場に膝をつく。
「…とんでもないやつだ…」
周ほどの術者でも、立っているのがやっとだった。
それほどまでに、この猟奇的に美しい鬼の力は圧倒的だった。
「…椿を護るにはこれくらいの力が必要だな…」
そう1人つぶやくと、
ホッとしたのか、周もその場に気を失うように倒れた。
部屋の隅に置かれた、とある壺が目に入り、ため息をつく。
これを、使わなくちゃいけないのかと
気が重くて仕方がない。
「使わなくて済むようにしたかったんだけどな…」
ツボの中には秘伝の丸薬が入っている。
呪術で作られたその丸薬は対妖用の避妊薬だった。
術者が飲み込み、精液と練り合わせて施術をする。
椿の両親が周に託したのは
つまり、椿が妖に襲われるというその意味を持っていたのだ。