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贄姫
第2章 弍


「おい貴様、それ以上、椿にやたらと触るな」


精悍な声とともに周が眉にしわを寄せて
部屋に入ってきた。


「なんだなんだ、ここの陰陽師連中は
みんなそんなしかめっ面してんのかよ?」


「椿」


その瓊乱を無視して、周は椿を抱き起こした。
いつのまに彼はこんなに力が強くなったのだろう。
軽々と持ち上げられて椿は驚いた。


「どこ持ってく気だ、俺のだぞ」


「禊をする」


周は椿の手を引くとスタスタと歩き出す。
そして入り口で立ち止まって瓊乱を見ると


「ものではない。贄姫だからといってもの扱いするのは俺が許さない。
その角斬り取られたくなければもう少し礼をわきまえるんだな」


そう言うとピシャンと襖を閉めた。


「ちょ…周、痛いってば」


その椿の言葉に、はっとした周が
振り返って驚いた顔をしていることに、椿のほうが驚いた。


「ごめん、つい…」


「いいけど」


引っ張られて、足早につれてこられた
暗(くら)の森と呼ばれる森の滝の手前の小道で
周は困ったような申し訳なさそうな顔をした。


この森は英家の敷地の一部の広大な森で
一般人は立ち入ることができない。
神聖な場所とも言われており、妖が湧きやすいこの地において
陰陽師が聖域として守ってきた場所だった。


「周、ありがとう」


「めずらしいな、椿が礼を言うなんて」


「あたしだって、言うことくらいあるわよ!」


周がふと笑って、椿の頭をくしゃくしゃと撫でた。
久々の周の笑顔にほっとすると同時に涙が出てきた。
見られないようにあわてて下を向く。
安堵感と、今更の恐怖に、ひざが力を失いそうになる。


「大丈夫か、椿?」


「平気……行こ」


2人は、子どもの時のように、手を繋ぎあいながら、
庭から続く、暗の森へと入った。
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