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贄姫
第2章 弍
その瓊乱を目の端で見ながら
周はぎゅっと椿の手を握った。
「まぁいい。椿、とにかく何かあれば、いつも通り俺を呼べ。
俺が来なければ、あいつを頼るんだ。
だけど、決して油断するなよ、あいつ、瓊乱は何か隠していそうだからな」
「…わかった」
「いい子だ」
周が椿の頭を撫でる。
「これは呪符だから、常に持っておくんだ。
無くなったらちゃんと言うんだぞ」
うん、と渡された呪符の束を受け取った。
これがこんなに必要なのか、と
内心呆れたのだが。
「守護者なんだから呼べばあいつは来る。
危ない時とか俺が居ない時は絶対に呼べよ。
あんなやつでも、お前を守る契約には逆らえない」
「ってことは、
あいつにした契約も、私は逆らえないってこと?」
身体と魂、死んだ時はその屍を与える。
不気味な響きの契約内容に
思い出すだけで背筋が凍った。
「そうだ。それは…」
その後、周は何も言えず、
苦い顔をして目を逸らした。
「仕方がないことなんだ、椿。
俺だって、死んだら自分の使役する妖たちに魂を食われるんだ。
そういう契約でしか、妖と人とは共にいられない」
椿は、月明かりの下に浮かび上がる
周の精悍な顔をじっと見た。
「椿の身体の呪いは、妖をおびき寄せやすい香りを発しているそうなんだ。
人間にはわからない。
その呪いがなくとも、妖にとって人は美味いらしい。
…そして、今、結界は壊れきっていて
妖は入り放題なんだ」
「え!?」
「こないだの騒動でだいぶ壊れていて。
補修も間に合ってないんだよ。
それにあいつの邪気でみんな動きが鈍くて」
椿は思わずため息を吐いた。
「とにかく、何かあったら、俺やあいつを呼ぶんだよ。
絶対にだ。
約束できる?」
椿は、それにコクリと頷いた。
分からないことが多すぎた。
その不安だけが、椿の心を覆っていた。