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贄姫
第2章 弍
『おや、なにやら芳しい匂いがする…』
よく響く張りのある声が
障子の向こうから聞こえてきた。
人型なのに、背中に翼が生えている。
その翼が折りたたまれると障子が開けられた。
「……!」
瓊乱に口を縛られていたため
椿の悲鳴は出なかった。
だが、されてなければ、間違いなく大声を出していただろう。
そこには。
「へーえ、天狗か。
珍しいな。この辺の生き残りか?」
真っ赤な面は金色のつり目。
そして何より、顔の中心には
目立つ長い鼻がある。
瓊乱の声は聞こえなかったようで
天狗は鼻をくんくんさせると椿の方を向いた。
恐怖に身が固まっていると
瓊乱が椿から離れた。
助けてくれるのかと思いきや
「こりゃ面白いや。
椿、そいつと遊んでやれよ」
なんと、部屋の隅で酒瓶を傾け始めた。
椿が抗議に半身を起こすと
ばさっという羽音と共に天狗が上に乗ってきた。
『ふむ。これか?』
高下駄に着物の裾を踏まれて動けない。
パニックになっている椿の姿を見て
瓊乱は喜んでいるようで、酒を美味そうに飲んでいる。
その赤い目を睨みつけたのもつかの間
天狗に着物を引っ張られて
強引に起こされた。